三咲順子
「消防署長さんが面会を希望しておられます」 あるコンサートの事務局長から連絡を受けた。消防署の署長さんが私に !? 一体・・・。
この出会いが防災一人語りのきっかけ、スタートとなったのである。お目にかかると署長の加藤さん(注:「防災一人語り」推進グループ代表。平成17年当時、東京消防庁北多摩西部消防署長)は、私がコンサートで親子の絆をテーマにした音楽入りの物語、「一人語り」に感激して下さり、以前から心に留めておられた、火災で亡くなった男の子の家の消火活動に当たった関西の消防隊長の手記を私に話し、演じてもらいたい、という要望であった。
私は今まで、いのちの大切さ、思いやり、家族・人との絆や人情、差別、環境等をテーマに「一人語り」をライフワークとして公演活動をしていたが、それは全てフィクションで、レパートリーはファンタジックな物語が多かった。しかし今回の話は実話であり非常に辛い話。果たしてやれるだろうか・・・。一瞬戸惑ったものの、私はOKの返事をしていた。元来、来る者は拒まず、余程の事でない限り自然な流れに添うのをモットーとする私は、チャレンジ精神が旺盛で殆ど怖い物知らずでやってきた感がある。しかしまさかその防災一人語りが第6部までのシリーズ(注:本文執筆時)になろうとは夢にも思わなかった。しかもとてもやりがいを感じている。
人の命を守る、助ける、人の役に立つという事を消防ほど痛切に感じる仕事は他に余り無いのではと思われる。東日本大震災においても周知の通りである。その命を懸けた人々の活動を私が語るというのはおこがましい気もしたが、少しでも皆さんの日々の暮らしに何かヒントや注意、関心を持って頂き、一例でも火災等が減り、又、消防の方々の熱い思いが伝わればの一心で今まで語り続けてきた。
東京以外でもあちらこちらで上演する機会を頂戴している。これも発案者である加藤さんを始め、脚本の執筆者等沢山の方々のご協力のお陰で今日の防災一人語りがあると感謝している。厚く御礼申し上げると共に今後も防火防災の啓蒙に努め、全国各地で演じていきたいと心から願っている。
平成28年11月16日 南木曽町立南木曽中学校(長野県)で「グスコーブドリの伝記」を上演